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『色ざんげ (新潮文庫)』からの引用(抜き書き)読書ノート

引用(抜き書き)色ざんげ (新潮文庫)』の読書ノート作成者:NKazuyoshi さん

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ネタバレ注意!
突然僕は何か彼女に対して意地悪な気持になるのを感じた。始めて彼女に逢った夜、彼女が僕に言ったあの言葉を思い出したのだ。あんなお家にいて画を描いているなんて、彼女はそう言う言葉をもって僕に彼女と仲よしになることの得策について話したことがある。何を言っているのだろう。平気でそんなことを人に言える彼女が今の僕の言葉を言葉以上の悪意をもって解釈するということがあるだろうか。

昨日までの自分がそのまま逆になって滑稽な嗤いものになる。そんなことが許せるだろうか。僕の考えはまたいつの間にか平衡を失ってそこへ戻って来る。あの小娘にしてやられた。そういう考えが払いのけようとすればするほどうるさく頭にこびりついて来る。僕は自分がとも子に対してどの意味から言っても誠実のある良人とは言えなかったという事実、ほんとうの意味では少しも愛情を持っていなかったという事実とは関係なく、ただ無暗にとも子に先を越されたことが腹立たしかった。

自暴自棄というよりももう少し積極的な、或いは廃頽的な気持である。とにかく僕は変わっていた。深い水底にいる微生物のように僕はどんな風にでも体を動かすことが出来る気がする。法律とか道徳とか人の世の約束とかの遠く届きそうもないこの世界で、僕は何でも出来るような気がする。僕は不安の中に喜悦を感じる。この自由な世界でつゆ子は完全に僕のものであった。
MEMO:
良い読書であった。
さん
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