本書は、社会学を中心とした「社会理論」と現代社会に「ジェンダー」の眼差しで、その考え方の偏狭性を問い直す学術書である。
周知の通り、「ジェンダー」とは、社会的に構築された性別役割であるが、これを分析概念、あるいは批判概念として既存の社会理論や社会現象に照射して、我々が今まで「人間」として「普遍」であると考えてられてきたことが、いかに男性中心の眼差しで歴史的に、社会的に構築されてきたものであること焙り出す。社会理論での射程は、構造主義、アイデンティティ、合理的選択理論、エスノメソロジー、システム理論、精神分析、文化人類学、生物学に渡り、社会現象も、表象現象、日常会話、ケア労働、家族、ナショナリズム、グロ-バリゼーションと、現在の我々の「問題意識」と軌を一にしている。
広域のテ-マを扱うも、どれも主流である議論を俎上に載せているため、この一冊で各々の分野で「ジェンダー」により何を問題としているのか、焦点のズレがぶれることなく読者に伝えている。
国際政治を専攻する筆者にとって興味深かったのは、社会学の理論を取上げているが、ほとんどの理論は、国際政治の分析手法としても当然のごとく応用されているものであり専攻分野の違いを感じさせない。むしろ、本書を読み進むに従い、社会現象を分析する各々の学術領域が、より一層インタ-ディシプリナリ-化が進んでおり、むしろ、この言葉が時代遅れで、学術領域が社会現象の多様性によって溶解、そして融合されているような感覚に襲われる。そうだとすれば、本書は、ジェンダー概念によって、社会現象を批判する、脱構築化する見方の他に、ジェンダーフリー化されていない「もうひとつの社会」を描き出したものと言っても差し支えないであろう。
これからジェンダーを読者の専門に従って深く探究していく者にとっては、まず目を通しておきたい一冊である。正攻法で読みつつ、ひっくり返して見たら面白いのではないか。(
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