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masudakotaro さんのプロフィール

masudakotaro さん
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  • 人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの (角川EPUB選書)
    【終章 変わりゆく世界】 人工知能で引き起こされる変化は,「知能」という,環境から学習し,予測し,そして変化に追従するような仕組みが,これまた人間やその組織と切り離されるということである。 人工知能が人間を征服するといった滑稽な話ではなく,社会システムの中で人間に付随して組み込まれていた学習や判断を,世界中の必要なところに分散して設置できることで,よりよい社会システムをつくることができる。それこそが,人工知能が持つ今後の大きな発展の可能性ではないだろうか。 産業への波及効果 ①広告,画像診断,ネット企業→ディープラーニングによって画像認識の精度が向上すると,従来のマス向けの画一的な広告から,個人の趣味嗜好に応じたターゲティング広告が一般化する。また,レントゲンやCTなどの画像をもとにした診断を自動で下せるようになる。 ②パーソナルロボット,防犯(警備会社+警察),ビッグデータ活用企業→音声や手ざわり感など,マルチモーダルな認識精度が劇的に向上することが見込まれる。そうなると,ソフトバンクが2014年に発表した人型ロボット「ペッパー」のように,人間の感情を認識して定型のコミュニケーションをしたり,店舗内で接客したりするロボットが普及する可能性がある。また,動画の認識精度が向上することで,街中に張り巡らされた防犯カメラによる防犯システムが構築され,犯罪検挙率が向上するかもしれない。 ③自動車メーカー,交通,物流,農業→周囲を観察するだけだった人工知能が,自分の行為の結果,周囲にどんな影響が出るか認識できるようになると,ロボットのプランニングの精度が上がる。その結果,たとえば現在,グーグルが先行してテストを繰り返している自動運転技術が実用化され,商品を消費者に届けるテストワンマイル(物流センターと消費者を結ぶ最後の区間)はもしかすると,無人ヘリコプターのドローンが担っているかもしれない。農業の自動化も含め,主に身体を動かす労働の分野で人間の代わりに働くロボットが普及するのもこのころだろう。人間が何らかの判断を担い,コントロールしている分野である。 ④家事,医療・介護,コールセンター→行動に基づく抽象化ができるようになると,たとえばロボットが「人間の手を強く握ると,人間は痛いと感じる」といったことを理解して,痛くないようにやさしく握る,傷つけないように運ぶなど,人間にしかできなかったような繊細な行動ができるようになる。その結果,物流や農業など,それまで「モノ」を対象としてきたロボットの活動範囲が,対人的なサービスにまで広がるだろう。 ⑤通訳・翻訳,グローバル化→人間が持っている「概念」のかなりの部分を獲得した人工知能は,それぞれの概念にふさわしい「言葉(記号表記)」を割り当てることで,言葉を理解するようになる。Siriのような音声対話システムも,人間が用意した記述に基づいて答えるのではなく,人工知能が外界をシミュレートしながら,思考して答えられるようになる。同時に,機械翻訳も実用的なレベルに達するため,「翻訳」や「外国語学習」という行為そのものがなくなるかもしれない。言葉の壁がなくなることで,これまで以上に,ビジネスのグローバル化が進むはずだ。 ⑥教育,秘書,ホワイトカラー支援→人間の「言葉」を理解できるようになると,人類が過去に蓄積してきた知識を人工知能に吸収させることができる。その結果,人工知能の活動範囲は人間の知的労働の分野にも広がっていくはずだ。たとえば教育であり,初等教育や受験といった決められたもの以外にも,必要に応じて人工知能が身につけた上で教えてくれることも可能になるかもしれない。また,臨機応変に状況を判断し,必要なときには学習して対応するといった秘書的な業務や,さらにはホワイトカラー全般の支援もできるようになるだろう。 (続きを読む
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    2016/11/13 作成
  • 人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの (角川EPUB選書)
    【第6章 人工知能は人間を超えるか】 人工知能が発展すると,人間と同じような概念を持ち,人間と同じような思考をし,人間と同じような自我や欲望を持つと考えられがちだが,実際はそうではない。 人間が「知識」として教えるのではなく,コンピュータが自ら特徴量や概念を獲得するディープラーニングでは,コンピュータが作りだした「概念」が,実は,人間が持っていた「概念」とは違うというケースが起こりうる。人間がネコを認識するときに「目や耳の形」「ひげ」「全体の形状」「鳴き声」「毛の模様」「肉球のやわらかさ」などを「特徴量」として使っていたとしても,コンピュータはまったく別の「特徴量」からネコという概念をつかまえるかもしれない。 そもそも,センサーのレベルで違っていたら,同じ「特徴量」になるはずがない。人間には見えない赤外線や紫外線,小さすぎて見えない物体,動きが早すぎて見えない物体,人間には聞こえない高音や低音,イヌにしか嗅ぎ分けられない匂い,そうした情報もコンピュータが取り込んだとしたら,そこから出てくるものは,人間の知らない世界だろう。そうやってできた人工知能は,もしかしたら「人間の知能」とは別のものなのかもしれないが,間違いなく「知能」であるはずだ。 もう1つ重要なのが。「本能」だ。本能といっても,脳に関することであり,要は何を「快」あるいは「不快」と感じるかということである。 人間の場合,生物であるから基本的に生存(あるいは種の保存)に有利な行動は「快」となるようになっており,逆に生存の確率を低くするような行動は「不快」となるようにできている。 こうした本能に直結するような概念をコンピュータが獲得することは難しい。 シンギュラリティというのは,人工知能が自分の能力を超える人工知能を自ら生み出せるようになる時点を指す。 人工知能が人類を征服したり,人工知能をつくり出したりという可能性は,現時点ではない。夢物語である。いまディープラーニングで起こりつつあることは,「世界の特徴量を見つけ特徴表現を学習する」ことであり,これ自体は予測能力を上げる上できわめて重要である。ところが,このことと,人工知能が自らの意思を持ったり,人工知能を設計し直したりすることとは,天と地ほど距離が離れている。 その理由を簡単に言うと,「人間=知能+生命」であるからだ。知能をつくることができたとしても,生命をつくることは非常に難しい。いまだかつて,人類が新たな生命をつくったことがあるだろうか。仮に生命をつくることができるとして,それが人類よりも優れた知能を持っている必然性がどこにあるのだろうか。あるいは逆に,人類よりも知能の高い人工知能に「生命」を与えることが可能だろうか。(続きを読む
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    2016/11/13 作成
  • 人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの (角川EPUB選書)
    【第6章 人工知能は人間を超えるか】 ディープラーニングは特徴表現学習の一種であり,その意義の評価については,専門家の間でも大きく2つの意見に分かれている。 ① 機械学習の発明の一つにすぎず,一時的な流行にとどまる可能性が高いという立場。 ② 特徴表現を獲得できることは,本質的な人工知能の限界を突破している可能性があるとする立場。 私が予測する今後の技術の進展。 ①画像特徴の抽象化ができるAI→②マルチモーダルな抽象化ができるAI ②視覚系だけでなく,音声や圧力センサーといった,画像以外の情報も取り込むことによって,マルチモーダルな(複数の間隔のデータを組み合わせた)抽象化ができるようになるはずだ。 ③行動と結果の抽象化ができるAI ④次に必要となるのは,コンピュータ自らの行為と,その結果をあわせて抽象化することである。 ⑤自らの行動と結果をセットで抽象化することのメリットは,「まず椅子を動かして,その上に乗って,高いところにあるバナンを取ろう」というような,「行動の計画」が立てられるようになることだ。 ⑥行動を通じた特徴量を獲得できるAI ⑦続いて,そういう行動ができるようになると,「行動した結果」についても抽象化が進む。 ⑧いったん動作を通じた特徴量を得ることができれば,次からは見た瞬間,われやすいコップだから気をつけて扱おう,やわらかいソファだから座ったらこれくらい身体が沈むだろうという予測が立ちやすくなる。周囲の状況に対する認識が一段深くなり,ロボットの行動はより環境に適したものになる。 ⑨言語理解・自動翻訳ができるAI ⑩ネット上でのみ行動する人工知能であれば,ネット上にある事象をベースとしてそこから引き出される抽象概念は獲得することができる。その結果,コンピュータが「言語」を獲得する準備が整う。先に「概念」を獲得できれば,後から「言語(記号表記)」を結びつけるのは簡単だからだ。 ⑪知識獲得ができるAI ⑫コンピュータが人間の言葉を理解できるようになるということは,コンピュータの中に何らかのシミュレータが備えられており,「人間の文章を読むとそこに何らかの情景が再現できるようになっている」ということである。すると,コンピュータも本が読めるようになる。いろいろな小説を読んで,「望遠鏡で覗くのは男のほうが多い」ことも理解するかもしれない。 (続きを読む
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    2016/11/13 作成
  • 人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの (角川EPUB選書)
    【第5章 静寂を破る「ディープラーニング」】 ディープラーニングは,データをもとに,コンピュータが自ら特徴量をつくり出す。人間が特徴量を設計するのではなく,コンピュータが自ら高次の特徴量を獲得し,それをもとに画像を分類できるようになる。 ディープラーニングが従来の機械学習とは大きく異なる点が2点ある。1つは,1層ずつ階層ごとに学習していく点,もう1つは,自己符号化器(オートエンコーダー)という「情報圧縮器」を用いることだ。 相関のあるものをひとまとまりにすることで特徴量を取り出し,さらにそれを用いて高次の特徴量を取り出す。そうした高次の特徴量を使って表される概念を取り出す。人間がぼーっと景色を見ているときにも,実はこんな壮大な処理が脳の中で行われているのである。 自己符号化器は,本来なら教師が与える正解に当たる部分に元のデータを入れることによって,入力したデータ自身を予測する。そして,さまざまな特徴量を生成する。 ディープラーニングは「データをもとに何を特徴表現すべきか」という,これまで一番難しかった部分を解決する光明がみえてきたという意味で,人工知能研究を飛躍的に発展させる可能性を秘めている。 ディープラーニングがやっていることは,主成分分析を非線形にし,多段にしただけである。つまり,データの中から特徴長や概念を見つけ,そのかたまりを使って,もっと大きなかたまりを見つけるだけである。何てことはない,とても単純で素朴なアイデアだ。 ディープラーニングの登場は,少なくとも画像や音声という分野において,「データをもとに何を特徴表現すべきか」をコンピュータが自動的に獲得することができるという可能性を示している。かんたんな特徴量をコンピュータが見つけ出し,それをもとに高次の特徴量を見つけ出す。その特徴量を使って表される概念を獲得し,その概念を使って知識を記述するという,人工知能の最大の難関に,ひとつの道が示されたのだ。(続きを読む
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    2016/11/13 作成
  • 人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの (角川EPUB選書)
    【第4章 「機械学習」の静かな広がり】 こうした閉塞感の中,着々と力を伸ばしてきたのが「機械学習」という技術であり,その背景にあるのが,文字認識などのパターン認識の分野で長年蓄積されてきた基盤技術と,増加するデータの存在だった。 特にウェブ上にあるウェブページの存在は強烈で,ウェブページのテキストを扱うことのできる自然言語処理と機械学習の研究が大きく発展した。 その結果,統計的自然言語処理と呼ばれる領域が急速に進展した。これは,たとえば,翻訳を考えるときに,文法構造や意味構造を考えず,単に機械的に,訳される確率の高いものを当てはめていけばいいという考え方である。 機械学習とは,人工知能のプログラム自身が学習する仕組みである。 そもそも学習とは何か。どうなれば学習したといえるのか。学習の根幹をなすのは「分ける」という処理である。ある事象について判断する。それが何かを認識する。うまく「分ける」ことができれば,ものごとを理解することもできるし,判断して行動することもできる。「分ける」作業は,すなわち「イエスかノーで答える問題」である。 機械学習は,コンピュータが大量のデータを処理しながらこの「分け方」を自動的に習得する。いったん「分け方」を習得すれば,それを使って未知のデータを「分ける」ことができる。 機械学習では,どんなデータを用意するか,どのように正しい出力(正解データ)を用意するか,この2つの組み合わせによって,いくらでもあたらしい仕事をさせることができる。 機械学習によって「分け方」や「線の引き方」をコンピュータが自ら見つけることで,未知のものに対して判断・識別・そして予測をすることができる。 機械学習にも弱点がある。それがフィーチャーエンジニアリングである。つまり,特徴量(あるいは素性という)の設計であり,ここでは「特徴量設計」と呼ぼう。 特徴量というのは,機械学習の入力に使う変数のことで,その値が対象の特徴を定量的に表す。この特徴量に何を選ぶかで,予測精度が大きく変化する。 機械学習の精度を上げるのは,「どんな特徴量を入れるか」にかかっているのに,それは人間が頭を使って考えるしかなかった。これが「特徴量設計」で,機械学習の最大の関門だった。 人間は特徴量をつかむことに長けている。なにか同じ対象を見ていると,自然にそこに内在する特徴に気づき,よりかんたんに理解することができる。 「知識」を入れれば人工知能は賢くなるが,どこまで「知識」を書いても書ききれないという問題にぶつかった。また,「フレーム問題」では,タスクによってロボットが使うべき知識をどう定めておけばよいのかが決められなかった。「シンボルグラウンディング問題」では,コンピュータにとって,シマウマが「シマシマのあるウマ」だと理解できないことが問題であった。 機械学習では,何を特徴量とするかは人間が決めないといけなかったということである。人間がうまく特徴量を設計すれば機械学習はうまく動き,そうでなければうまく動かない。 今まで人工知能が実現しなかったのは,「世界からどの特徴に注目して情報を取り出すべきか」に関して,人間の手を借りなければならなかったからだ。 つまり,コンピュータが与えられたデータから注目すべき特徴を見つけ,その特徴の程度を表す「特徴量」を得ることができれば,機械学習における「特徴量設計」の問題はクリアできる。(続きを読む
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    2016/11/13 作成
  • 人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの (角川EPUB選書)
    【第2章 「推論」と「探索」の時代】 第1次AIブームは推論・探索の時代,第2次AIブームは知識の時代,第3次AIは機械学習と特徴表現学習の時代である。 1960年台に花開いた第1次AIブームでは,一見すると知的に見えるさまざまな課題をコンピュータが次々に解いていった。さぞかしコンピュータは賢いのだろうと思われたが,冷静になって考えてみると,この時代の人工知能は,非常に限定された状況でしか問題が解けなかった。迷路を解くのも,パズルを解くのも,チェスや将棋に挑戦するのも,明確に定義されたルールの中で次の一手を考えればよかったのだが,現実の問題はもっとずっと複雑だった。 【第3章 「知識」を入れると賢くなる】 推論・探索のためのシンプルなルールで人工知能を実現しようとした第1次AIブームとは異なり,第2次AIブームを支えたのは「知識」である。たとえば,お医者さんの代わりをしようと思えば,「病気に関するたくさんの知識」をコンピュータに入れておけばよい。弁護士の代わりをしようと思えば,「法律に関するたくさんの知識」を入れておけばよい。そうすると,迷路を解くというおもちゃの問題ではなく,病気の診断をしたり,判例に従った法律の解釈をしたりという現実の問題を解くことができる。 エキスパートシステムの課題→知識をコンピュータに与えるために,専門家からヒアリングして知識を取り出さないといけないことである。これはコストもかかり,大変な処理であった。また,知識の数が増えて,ルールの数が数千,数万となると,お互いに矛盾していたり,一貫していなかったりするので,知識を適切に維持管理する必要が出てくることもわかった。 知識を記述するのが難しいことがわかってくると,知識を記述すること自体に対する研究が行われるようになってきた。それがオントロジー研究につながった。 「人間がきちんと考えて知識を記述してくためにどうしたらよいか」を考えるのが「ヘビーウェイト・オントロジー」派と呼ばれる立場であり,「コンピュータにデータを読み込ませて自動で概念間の関係性を見つけよう」というのが「ライトウェイト・オントロジー」派である。 ライトウェイト・オントロジーのひとつの究極の形ともいえるのが,IBMが開発した人工知能「ワトソン」である。 ワトソン自体は質問の意味を理解して答えているわけではなく,質問に含まれるキーワードと関連しそうな答えを,高速に引っ張り出しているだけである。 第2次AIブームは,「知識」を入れることで人工知能の能力向上を図ってきた。しかし,ワトソンの性能がどれだけ上がったようにみえたとしても,質問の「意味」を理解しているわけではない。 単純な1つの文を訳すだけでも,一般常識がなければうまく訳せない。ここに機械学習の難しさがある。一般常識をコンピュータが扱うためには,人間が持っている書ききれないくらい膨大な知識を扱う必要があり,極めて困難である。 フレーム問題→ロボット3号には,さらに改良が加えられた。今度は,「目的を遂行する前に,無関係な事項は考慮しないように」改良された。すると,ロボット3号は関係あることとないことを仕分ける作業に没頭して,無限に思考し続け,洞窟に入る前に動作しなくなった。 シンボルグラウンディング問題→意味がわかっている人間にはごくかんたんなことが,意味がわかっていないコンピュータにはできない。シマウマが「シマシマのあるウマ」だということは記述できても,ただの記号の羅列にすぎないので,それが何を指すかわからない。初めてシマウマを見ても,「これがあのシマウマだ」と認識できない。つまり,シマウマというシンボル(記号)と,それを意味するものがグラウンドして(結びついて)いないことが問題なのだ。 第2次AIブームでは知識が主役となって発展したが,同時に,知識を記述することの難しさがわかってきた。(続きを読む
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    2016/11/13 作成
  • 人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの (角川EPUB選書)
    【序章 広がる人工知能】 人工知能について報道されているニュースや出来事の中には,「本当にすごいこと」と「実はそんなにすごくないこと」が混ざっている。「すでに実現したこと」と「もうすぐ実現しそうなこと」と「実現しそうもないこと(夢物語)」もごっちゃになっている。 【第1章 人工知能とは何か】 実は,人工知能は2015年現在,まだできていない。 世の中に「人工知能を搭載した商品」や「人工知能を使ったシステム」は増えているので,人工知能ができていないなどと言うと,びっくりするかもしれない。しかし,ほんとうの意味での人工知能――つまり,「人間のように考えるコンピュータ」はできていないのだ。 人間の脳の中には多数の神経細胞があって,そこを電気信号が行き来している。脳の神経細胞の中にシナプスという部分があって,電圧が一定以上になれば,神経伝達物質が放出され,それが次の神経細胞に伝わると電気信号が伝わる。つまり,脳はどう見ても電気回路なのである。 人間のすべての脳の活動,すなわち,思考・認識・記憶・感情は,すべてコンピュータで実現できる。 人間を特別視したい気持ちもわかるが,脳の昨日や,その計算のアルゴリズムとの対応を一つひとつ冷静に考えていけば,「人間の知能は,原理的にはすべてコンピュータで実現できるはずだ」というのが,科学的には妥当な予想である。 私の定義では,人工知能は「人工的につくられた人間のような知能」であり,人間のように知的であるとは「気づくことのできるコンピュータ」,つまり,データの中から特徴量を生成し現象をモデル化することのできるコンピュータという意味である。 世の中で人工知能と呼ばれるものを整理すると,次のようなレベル1からレベル4の4段階に分けることができそうである。 ① レベル1/単純な制御プログラムを「人工知能」と称している→マーケティング的に「人工知能」「AI」と名乗っているものであり,ごく単純な制御プログラムを搭載しているだけの家電製品に「人工知能搭載」」などとうたっているケースが該当する。 ② レベル2/古典的な人工知能→振る舞いのパターンがきわめて多彩なものである。将棋のプログラムや掃除ロボット,あるいは質問に答える人工知能などが対応する。 ③ レベル3/機械学習を取り入れた人工知能→検索エンジンに内蔵されていたり,ビッグデータをもとに自動的に判断したりするような人工知能である。機械学習というのは,サンプルとなるデータをもとに,ルールや知識を自ら学習するものである。 ④ レベル4/ディープラーニングを取り入れた人工知能→機械学習をする際のデータを表すために使われる変数(特徴量と呼ばれる)自体を学習するものがある。 言われたことだけをこなすレベル1はアルバイト,たくさんのルールを理解し判断するレベル2は一般社員,決められたチェック項目に従って業務をよくしていくレベル3は課長クラス,チェック項目まで自分で発見するレベル4がマネージャークラス,という言い方もできるだろうか。(続きを読む
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    2016/11/13 作成
  • 誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち
    【第4章 明日香】 2008年2月1日時点の「児童養護施設入所児童等調査結果(厚生労働省)によれば,入所理由で最も多いのが,「母の精神疾患等」で18.9%。注目すべきは「両親の放任・怠惰」や「両親の虐待・酷使」「棄自」など虐待にあたる理由で,これらを含めれば27.3%と最大の入所理由となる。 彩加ちゃんは病院の待合室で目が合った人には誰でもべたべたとくっついて,その人のバッグを開けて中身を片っ端から出していくという行為も繰り返したという。人との距離感が取れないのは愛着障害の典型的な行動であり,また,施設には「これは誰かのモノ」という私物の概念がないための行動だ。 「『おいしいね』って私たちが食べるところを見せないと,子どもは大人が“食べる”ということがわからないのです」 一般に「親の,子への愛は無償だ」と言われるが,虐待を見ていく限り,それは逆だとしか思えない。子の,親への愛こそが無償なのだ。 【第5章 沙織】 厚生労働省から発表される,児童相談所における「相談種別対応件数」(2010年度版)の割合においても,「身体的虐待」が38.3%,「ネグレクト」が32.7%,「心理的虐待」が26.5%に対し,「性的虐待」は2.4%と非常に低いものとなっている。性的虐待の相談件数が全体の3%前後というのは,年によって相変化はない。 この数字が実態とかけ離れていると,臨床現場からの指摘がある。 「あいち小児保健医療総合センター」において,2001年11月から2011年10月までの期間に,虐待で治療を行った患者数は1110名。そのうち性的虐待を受けていたのは男性56名,女性132名の計188名で,全体の役17%にも上っている。 あいち小児の新井康祥医師は,性的虐待の被害者を治療してきた経験からこう語る。「トラウマを抱える被害者全般に言えることですが,本人はまるで悪くないにもかかわらず,自分を責めたり,自己評価が低かったりします。だから,虐待の件について,『それは,お父さんが悪いと思うよ』と伝えても,『えっ,そうなの?』と言ってくれればまだましで,しばらく治療してからも,『自分が悪かったから仕方がない』とか,『お父さんのおかげで生活できているから』『お母さんにあまり迷惑をかけられない』と話す子も多いので,とても根が深い問題だと思います」 あいち小児でカルテを作った親の実に63%が性的虐待の被害があり,解離性同一性障害という診断名がついたケースでは42%にも及んでいる。 トラウマ治療である「EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing=眼球運動による脱感作と再処理法):患者の目の前に指を二本立てて左右に振り,患者が目でその指を追い眼球を動かすという眼球運動を主な特徴とする治療法だ。眼球運動とともに,トラウマになっている記憶を思い出すと,なぜかその記憶との間に心理的な距離が取れるようになる。すると苦痛が薄れ,同時に自己の評価が向上するという。 「お母さん」である里親女性は,こう話してくれた。「自分と同じ痛みを持った仲間だっていう思いが,子どもたちのなかにすごくあるの。同時に,私がなぜ里親をやっているかっていう思いもちゃんと伝わっているの。男女,年令に関係なく。男女,年齢に関係なく。あの子たち,本当にすごいよ。6歳の子だって,3歳の子に何かあったら率先して手伝おうとするの。これが,多人数養育の素晴らしさだと思う。仲間って大事だよね。心強いことだよね。 (続きを読む
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    2014/12/23 作成
  • 誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち
    【第3章 拓海】 2013年10月1日時点で,対象児童焼く4万7千人のうち,児童養護施設で約2万9千人,乳児院に約3千人,情緒障害児短期治療施設などのその他の施設に約9千人と,約9割が「施設養護」の場で暮らしているのだ。 小学4年生で,自分の将来への足がかりとなるイメージ一つ,その欠片すら描けない。それはただ「生きてきた」「生かされてきた」だけと言わざるを得ないのではないか。 児童相談所に「この子には知的に遅れがある」と子どもを連れて行き知能検査を行い,診断書を児童相談所や社会福祉事務所などに提出すれば,手帳(療育手帳)は交付される。ではなぜ,知的に問題のない子どもにそのような診断が下りるのか。それは検査そのものに問題がある(からだ)。「施設での暮らしで,いろんなことを投げ出しているような子どもたちだから,心理士が『これ,やれる?』と言っても,まず『そんなもん,やれない』となる。知能検査も一般常識を問うものが多くて,たとえば文房具の中に鏡を入れて,『どれが仲間外れ?』と聞かれたとする。でも,彼らは小学校に上がるまで自分の文房具を持たせてもらってないから,わからない。あるいは『テニスのラケットはどれ?』と聞かれても,彼らはそんなもの,見たことがない」 ある男性職員は,児童養護施設はこんな場所でありたいと話す。「僕が実家に帰るのと同じように,嫌なことがあってもここに帰ってくれば安心なんだ,と感じとれる場所にしてあげたい。人に頼れる,人が裏切らない,人が自分の味方になってくれることを体験できる場所でありたい」 「彼の学習が遅れているのは,彼のせいではありません。今までの環境がそうさせているのです。彼にそうさせてしまった社会に,私たちはいます」 (続きを読む
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    2014/12/23 作成
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