Paragrase “パラグレーズ” ロゴ

『パラレルワールド・ラブストーリー (講談社文庫)』からの引用(抜き書き)読書ノートリスト

引用(抜き書き)『パラレルワールド・ラブストーリー (講談社文庫)』の読書ノートリスト

  • 全 1 件
  • 並び替え: 新着順 / 人気順
  •  線路は全く違うが、二つの電車が同じ方向に、しかも同じ駅に止まりながら進んでいく場合が時折存在する。田端、品川間の山手線と京浜東北線も、そういったものの一つだ。  大学院在学中、敦賀崇史は週に三度、山手線を利用した。新橋にある大学の資料室に行くためだった。毎朝決まった時刻に、同じ電車に乗った。ラッシュアワーは過ぎていたが、座れることは殆どなく、彼はいつもドアの脇に立つことにしていた。いつも同じ車両、同じドアだった。  そうして外の景色を眺める。雑然としたビルの群れ、くすんだ空、品のない看板。  が、それらの風景も、並行して走っている京浜東北線の車両に阻まれることが多かった。その電車は、近づいたり、離れたりしながら、同じように走っていた。ほぼ同じ速度だから、最接近した時などは、まるで一緒の車両内にいるかのように、向こうの乗客のようすを見ることができた。無論、向こうからもこちらのようすが手に取るようにわかるはずだった。だがどれだけ近づいても、双方の空間に交流はない。あちらはあちらで、こちらはこちらで世界が完結している。  ある時崇史は、向こうの電車に乗っている若い女性に目を留めた。彼女は崇史と同じように、ドアの横に立ち、外に目を向けていた。髪が長く、目の大きな娘だった。大学生かなと、そのカジュアルな服装から崇史は推測した。  その後何度か乗るうち、毎週火曜日、彼女が必ず向こうの電車に乗っていることを発見した。同じ時刻の電車で、同じ車両の同じドアのところに彼女は立っていた。  崇史は火曜の朝を楽しみにするようになった。彼女を見た日は、なんとなく気分がよかった。逆に、たまに彼女を見つけられなかった時には、どうしたのだろうと気になって仕方がなかった。要するに彼は彼女に恋をしていた。(続きを読む
2698 Views
itokoさん
itoko さん(2012/10/23 作成)
キーワードで引用ノートを探す
Copyright © 2024 Culturelife Inc. All Rights Reserved.