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『楽園への道 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-2)』からの引用(抜き書き)読書ノート

引用(抜き書き)楽園への道 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-2)』の読書ノート作成者:haruga6 さん

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狂ったオランダ人の思い出は、アトゥオナで暮らしはじめて数か月、ほとんど一瞬たりともおまえから離れることがなかった。どうしてだろうか、コケ。ほぼ十五年のあいだは、おまえの記憶から彼をきれいに消し去ることができていた、疑いなく幸運なことだった。なぜならフィンセントの思い出はおまえを落ち着かない気持ちにさせ、苦しめ、おまえの仕事をだめにしてしまったかもしれないから。けれどもここ、マルキーズ諸島では、おまえもあまり絵を描かなくなっていたから、あるいは疲れていたし病気でもあったから、心遣いの細やかさと狂気を伴った、人の善いフィンセント、かわいそうなフィンセント、我慢のならないフィンセントのイメージが絶えずおまえの意識になだれこんでくるのを阻む手だてがなかった。プロヴァンスで八週間に及ぶ困難な共同生活をしたときの数々の出来事、逸話、論争、憧れ、夢は、あれから十五年を経て、数日前の出来事さえすっかり忘れがちな現在の記憶状況でも、ポールは鮮やかに思い出すことができた。
P322
さん
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