ヴェネツィア 水の迷宮の夢』の読書ノート作成者:haruga6 さん
『2012/12/28 作成
まるでぼくはあの巨大な水彩画の中の、小さな動く点みたいだった。そしてジョヴァンニ・エ・パーオロ病院のところへ出ると、そこで右に曲がった。その日は暖かくて天気も良く、空は青くてすべてが素晴らしかった。フォンダメンテとサン・ミケーレ島に背を向けて、病院の壁をまるで抱きかかえるように、左肩をほとんど壁にこすりつけながら、太陽に向かって目を細めた。その時だ。突然ぼくは思った。ぼくは猫なんだ。今、魚を食ったばかりの猫。その時誰かがぼくに呼びかけたら、きっとぼくはニャーと返事したことだろう。ぼくは絶対的に、動物的な幸せを満喫していた。それから十二時間後、もちろんニューヨークに着いた後のことだが、ぼくは自分の人生でおそらく最悪の状況に対面した――少なくともその時はそう思えた。でもぼくの中には、猫がまだ居残っていた。その時その猫がいなかったら、ぼくは今、どこかべらぼうに金のかかる精神病院の壁を、よじ登っていたにちがいない。
p106
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haruga6 さん
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