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『新装版 俄(下) 浪華遊侠伝 (講談社文庫)』からの引用(抜き書き)読書ノート

引用(抜き書き)新装版 俄(下) 浪華遊侠伝 (講談社文庫)』の読書ノート作成者:pigeon さん

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「そうか、斬るか」
 万吉は、ひとごとのようにうなずいた。
「ほなら、すぱっとやって貰オか」
「馬鹿に手軽だな」
 斬る側の大石鍬次郎のほうが驚いた。いままでこんな奴にめぐりあったことがない。
「斬られるのは、おぬしだぜ」
「念を押すなよ、気味の悪い」
「押す気にもなる。明石屋、いったいおぬしの心ノ臓はどこについているのだ」
「ここや」
 万吉はコブシを宙にあげて空気を掴んだ。
「コブシについているのか」
「いや、ここや」
 また、ぱっと虚空をつかんだ。
「どこだ」
「ここや」
 ぱっとつかむ。
「わからんな」
「虚空にある」
と、万吉はうれしそうにいった。禅問答のようだが、やがて大石は了解した。万吉のいのちは体内にはなく常に虚空にある、という意味であろう。生命などは空だ、と万吉は言いたいにちがいない。
(P.138)
MEMO:
明石屋万吉が、新選組の大石鍬次郎にいよいよ斬られようという直前でのやりとり。
全編を通じて、万吉には死への恐怖が微塵もないように見受けれる。
その達観した心境の手掛かりとなる一節ではないか。
自分の心臓が虚空にあるなら、たとえ斬られても、痛みもなく怖くもないということか。
さん
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