毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記』の読書ノート作成者:masudakotaro さん
『2013/09/08 作成
もしかしたら,佳苗は「惚れなかった」から,常に男たちの冷静な観察者だったから,そして決して自分の容姿を卑下することがなかったから,男たちに魔法をかけられたのかもしれない。男たちは,ただ彼女に受け入れられている,愛されている,という安心感のなか,彼女がみせる虚構の世界にゆったりと浸っていればよかったのだろう。生々しく悔しがり,嫉妬し,怒る,感情的で面倒くさい美人より,自分をすべて受容する料理上手で感情をみせない不美人のほうが,男たちは夢を見やすい。
(中略)冷静な佳苗が上手に見えるのだ。裁判員の心証を悪くするための検事の質問のはずが,逆に検事の純情を佳苗がもてあそんでいるように聞こえてしまうのだ。
それにしても,検察側の被告人質問になってからの佳苗の服装は,これまでになく地味である。地味というよりは,気を抜きすぎ,という感じだ。弁護側の被告人質問の時は,スカートを重ねばきしたり,黒いワンピースや旨が大きくあいたカットソーなどを着ていたのが,検察側の尋問になってからは茶色のシャツに紺のジャケットにグレーのパンツにスリッパといった,まるでやる気のない装いだ。もしかしたら今までは礼服感覚だったのだろうか。検事には礼服で対応したくはない?
声を荒げる検事に,一度,佳苗が笑ったことがあった。傍聴席からは見えないが,きっとバカにしたように口元を歪めたのだろう。詰め寄るように「なぜ笑ったんですか?」と検事が聞くと,「佳苗は彼を見ようともせずに,マイクに向かって,はっきりとこう言った。「あなたが,常に,恫喝的だからです。」
(佳苗の最終意見陳述)佳苗は,時折,小さく「あんっ」と喘ぐような感じで声を引きつらせつつ,話した。改めて,美声だと思った。女の泣き声を,私は初めてセクシーだと思った。しかし,振り返った佳苗の顔に,涙の跡はみえなかった。席に座った佳苗はいつものように無表情のまま,綺麗な水色のハンカチで目と鼻をおさえていた。あれ!?一瞬目を疑った。ハンカチを,替えている?午前中はピンクのタオルハンカチだったよね?あはは。なんだか力が抜け,声を出して笑いそうになる。黒いワンピースに水色の面のハンカチは,綺麗に映えている。そして,とても佳苗らしい,と思った。
佳苗は,最後まで,佳苗だった。どんなにたくさん嘘をついてきても,自分を裏切ることはできないのが,佳苗だ。「男性が喜びそうな女像」と徹底して演じながらも,「他人にどう思われるか」に,驚くほど無頓着で恐れを持たず,それより「どう見せたいか」にこだわり,相手に畏怖と敬意を求める。それが佳苗だ。
佳苗がセックスのことを語っても,何ら有利に働くことはない。傍聴席からの失笑は佳苗の耳にも届いているだろう。裁判長の苛立ちや,検事の侮蔑を痛いほど感じているはずだ。それでも佳苗は,セックスのことを語り続けた。
検察は,二つあるはずの鍵が寺田さんの部屋に一つしか残っていなかったのは,佳苗が持っていたからだと主張していた。が,寺田さんがカギを二つ持っていた証拠はない。そもそも鍵が部屋に二つあった証拠だって,鍵が一つなくなっている証拠だってないのだ。しかし裁判長は口早に,しかしハッキリとこう言った。「寺田さんはレシートをきちんと残しておく几帳面な人だった。鍵をなくすことは,考えられない」」。え?そんな理由でいいの?思わず耳を疑い,身を乗り出してしまう。また,検察側の証人について「抑制的で冷静な話し方をする人だから,信用できる」と裁判長が言った時には,思わず「そんな!」と声をあげたくなった。それを言うなら,佳苗は終始,抑制的で冷静だった。
今回,裁判員はほとんど質問をしなかった。一度も声を出さなかった人もいた。せっかく「質問できる立場」にあるのに,さらにいくらでも疑問が出てくる裁判なのに,質問が出ないなんて信じられなかった。
佳苗は「平成の毒婦」と名付けられた。それでも,佳苗の「毒婦」は,どこか座りの悪い妙な感じを与えた。衝撃的に出回った写真が与えた影響は大きい。男たちを魅了し,多額のお金を引き出した佳苗が「毒婦」であることは間違いない。が,「なぜ男たちはこんな女に騙されたのか?」という疑問が,佳苗には常につきまとったのだ。いったい,なぜ,こんな女が「毒婦になれた」のだろう?と。そんなことを考えさせる「毒婦」など,かつていただろうか。
女の犯罪者の場合,その美醜も事件の要素の一つである。もし佳苗が美しい女だったら,被害者男性たちは,羨望や同情を集めただろう。それなのに美しくない女の被害者になった男性たちは,容赦なく好奇の目にさらされた。被害者すら“ブス色”に染められる。女の容姿そのものが事件であることに,言葉を失う。
(中略)冷静な佳苗が上手に見えるのだ。裁判員の心証を悪くするための検事の質問のはずが,逆に検事の純情を佳苗がもてあそんでいるように聞こえてしまうのだ。
それにしても,検察側の被告人質問になってからの佳苗の服装は,これまでになく地味である。地味というよりは,気を抜きすぎ,という感じだ。弁護側の被告人質問の時は,スカートを重ねばきしたり,黒いワンピースや旨が大きくあいたカットソーなどを着ていたのが,検察側の尋問になってからは茶色のシャツに紺のジャケットにグレーのパンツにスリッパといった,まるでやる気のない装いだ。もしかしたら今までは礼服感覚だったのだろうか。検事には礼服で対応したくはない?
声を荒げる検事に,一度,佳苗が笑ったことがあった。傍聴席からは見えないが,きっとバカにしたように口元を歪めたのだろう。詰め寄るように「なぜ笑ったんですか?」と検事が聞くと,「佳苗は彼を見ようともせずに,マイクに向かって,はっきりとこう言った。「あなたが,常に,恫喝的だからです。」
(佳苗の最終意見陳述)佳苗は,時折,小さく「あんっ」と喘ぐような感じで声を引きつらせつつ,話した。改めて,美声だと思った。女の泣き声を,私は初めてセクシーだと思った。しかし,振り返った佳苗の顔に,涙の跡はみえなかった。席に座った佳苗はいつものように無表情のまま,綺麗な水色のハンカチで目と鼻をおさえていた。あれ!?一瞬目を疑った。ハンカチを,替えている?午前中はピンクのタオルハンカチだったよね?あはは。なんだか力が抜け,声を出して笑いそうになる。黒いワンピースに水色の面のハンカチは,綺麗に映えている。そして,とても佳苗らしい,と思った。
佳苗は,最後まで,佳苗だった。どんなにたくさん嘘をついてきても,自分を裏切ることはできないのが,佳苗だ。「男性が喜びそうな女像」と徹底して演じながらも,「他人にどう思われるか」に,驚くほど無頓着で恐れを持たず,それより「どう見せたいか」にこだわり,相手に畏怖と敬意を求める。それが佳苗だ。
佳苗がセックスのことを語っても,何ら有利に働くことはない。傍聴席からの失笑は佳苗の耳にも届いているだろう。裁判長の苛立ちや,検事の侮蔑を痛いほど感じているはずだ。それでも佳苗は,セックスのことを語り続けた。
検察は,二つあるはずの鍵が寺田さんの部屋に一つしか残っていなかったのは,佳苗が持っていたからだと主張していた。が,寺田さんがカギを二つ持っていた証拠はない。そもそも鍵が部屋に二つあった証拠だって,鍵が一つなくなっている証拠だってないのだ。しかし裁判長は口早に,しかしハッキリとこう言った。「寺田さんはレシートをきちんと残しておく几帳面な人だった。鍵をなくすことは,考えられない」」。え?そんな理由でいいの?思わず耳を疑い,身を乗り出してしまう。また,検察側の証人について「抑制的で冷静な話し方をする人だから,信用できる」と裁判長が言った時には,思わず「そんな!」と声をあげたくなった。それを言うなら,佳苗は終始,抑制的で冷静だった。
今回,裁判員はほとんど質問をしなかった。一度も声を出さなかった人もいた。せっかく「質問できる立場」にあるのに,さらにいくらでも疑問が出てくる裁判なのに,質問が出ないなんて信じられなかった。
佳苗は「平成の毒婦」と名付けられた。それでも,佳苗の「毒婦」は,どこか座りの悪い妙な感じを与えた。衝撃的に出回った写真が与えた影響は大きい。男たちを魅了し,多額のお金を引き出した佳苗が「毒婦」であることは間違いない。が,「なぜ男たちはこんな女に騙されたのか?」という疑問が,佳苗には常につきまとったのだ。いったい,なぜ,こんな女が「毒婦になれた」のだろう?と。そんなことを考えさせる「毒婦」など,かつていただろうか。
女の犯罪者の場合,その美醜も事件の要素の一つである。もし佳苗が美しい女だったら,被害者男性たちは,羨望や同情を集めただろう。それなのに美しくない女の被害者になった男性たちは,容赦なく好奇の目にさらされた。被害者すら“ブス色”に染められる。女の容姿そのものが事件であることに,言葉を失う。
masudakotaro さん
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