『毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記』の読書ノートリスト
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- 決して美しいとはいえない佳苗の容姿はセンセーショナルに報道されてきた。腫れぼったい目,肉付きの良すぎる体,全体的に不潔そう・・・そんなイメージを持った人は多かったはずだ。が,実際に数メートルの距離で見るナマ佳苗から,だらしなさや不潔さや醜さは,全く感じなかった。拘置所では化粧水が使えないのか,額のニキビと顔の赤らみが目立ったが,それよりも,大きく胸の開いた薄いピンクのツインニットからのぞく肌の白さにハッとした。シミ一つない完璧な白,絹のような美肌だ。 そして,なんといっても,声だ。この日,佳苗が話す機会はなかったが,休廷中に弁護士や拘置所職員に話しかけるのが聞こえてきた。それはあまりに優しくて上品だった。内容は聞き取れなかったが,耳に優しいウィスパーボイスだ。ソプラノと言い切れるほど高くはないが,アルトでもない。耳にちょうどよい感じのいい声というような。 佳苗は3件の殺人,3件の詐欺,3件の詐欺未遂,1件の窃盗で起訴された。3件の殺人については無罪を主張し,詐欺については一部認め,窃盗は否認している。 検察側の尋問に対し弁護側が「異議あり」などと声をあげたときなどは,悠然と目の前のファイルを開き,時折ボールペンで何かを書き込むこともあった。その姿が,また印象的だった。ボールペンは100円のノック式のものだが,ノックの仕方が,なんていうか,優雅なのだ。ペンを少し傾けゆっくりと親指で押す。書き終わったら丁寧に芯を戻し,ファイルの背に挟む。一つ一つの所作がきれいだ。 驚いたのは休憩時間に,縄を持つ若い女性拘置所職員に一言二言話しかけ,「よろしく」っていう感じで両手を差し出していたことだった。手を軽くひねるように差し出す姿は,どこか色っぽさが漂う。縄につながれる動作が優雅な被告人なんていただろうか!? お昼の休廷後,肩で切りそろえられた佳苗の髪の位置が,午前中と比べ明らかに上がり,きれいにカールされていた。「あれ,絶対巻いてますよ」。隣に座った女性記者が言っていた。 フツーの被告人はマジメな印象を与えるため,色のある服を避けると,裁判に詳しい友人が話していたが,佳苗は公判が始まってからずっと,きれいな色の,旨の大きく開いた服を着てきている。まじめさよりも,デコルテを強調だ。そしてこの日,顔のニキビが薄くなっていた。ファンデーションを塗っているようにも見えた。きれいだった。観られるほどきれいになっていくタイプなのかもしれない。 この日の佳苗は,ドレープが豊かなグレーのニットに,胸元にレースのある白のカットソーだった。胸元協調は変わらないが,これまでで一番シックで,おしゃれに見えた。 休廷中,被告人席に座った佳苗は弁護士と談笑することがある。弁護士と佳苗の関係は良好のようで,佳苗は深い信頼をみせているようだ。裁判の間の無表情とは違い,華やかな笑顔がのぞく。 寺田さんはシステムエンジニアだった。女性との縁は薄く,人付き合いも得意なほうではなかった。寺田さんの携帯電話に登録されていたのはたった3人だ。お母さんとお姉さんと佳苗。証言台に立った上司は寺田さん像を尋ねられ,こう言った。「無口で寡黙で黙々と働いていました」。無口で寡黙で黙々って,どれだけ無口なのか。 公判が始まってから2週間あまり。被告人席に座る佳苗は,今のところ一度も同じ服の組み合わせをしていない。顎をひいた美しい姿勢のまま,優雅な手つきでメモを取り,時に弁護士に質問する姿は,熱心な受験生のようにも見える。「毒婦」というには,不思議な清潔感がある。 ふざけているわけではないが,被告席に座る佳苗を観ていると,三つの殺人事件の公判をそれぞれシーズン1,2,3とか名付けたくなってくる。たとえば“シーズン1”の大出さん事件が終わり,寺田さん事件に移ったころを境に,佳苗は前髪を切り,服装をパンツからスカートにしている。「これからはシーズン2!」とでもいうような主人公の突然のイメチェンだ。スカート丈はたいてい膝上5センチ。節電のせいか足下が冷える法廷で,佳苗はベージュの網タイツで登場することもある。裁判員を含め紺や黒の服を着た人が多い法廷で,佳苗の薄着と網タイツは,ヒロインそのものだ。あまりに堂々とした姿に,縄を持つ女性拘置所職員がおつきの人に見えてくるほど。 (続きを読む)
masudakotaro さん(2013/09/08 作成)