楽園への道 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-2)』の読書ノート作成者:haruga6 さん
『2012/12/08 作成
だからおまえはひまわりに囲まれているフィンセントを描いたのだ。その絵にはーーどのように見てもーーフィンセントが自分の絵に描きこんでいた生き生きした光はなかった。その反対に、どちらかといえばくすんでいて艶がなかった。その作品の中では、花も画家も輪郭をぼかしてぼんやりと周りに溶け込んでいた。しっかりと輪郭を描かれた人物というより、フィンセントはひとつの彫像で、耐えられないほど緊張してこわばっている剥製のようなマネキン人形で、今にも爆発しそうな火山男だった。とりわけ絵筆を握る硬直した右腕は、絵を描きつづけるためにしなければならない非人間的な努力を示していた。それらすべては、しかめた顔に、「俺は描いていはいない、自分を生贄にしているのだ」と言っているかのような、困惑気味の視線に集約されていた。フィンセントはその肖像画がまったく気に入らなかった。それをポールが見せると、フィンセントは青ざめて下唇を噛みしめ、不快なときに出てくるチック症状を見せながら、しばらく眺めていた、そして最後にこうつぶやいた。「そうだよ、これが俺だよ。でも狂っているね」
P335-336
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haruga6 さん
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