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『別海から来た女――木嶋佳苗 悪魔祓いの百日裁判』からの引用(抜き書き)読書ノート

引用(抜き書き)別海から来た女――木嶋佳苗 悪魔祓いの百日裁判』の読書ノート作成者:masudakotaro さん

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【第一部 別海から来た女】
取材拒否の姿勢は全く変わらなかった。そんな頑なな態度とは逆に,淳子の声は依然と同様沈んではいなかった。それどころか,こちらの質問に,若者がよくやるような語尾を長くのばした答え方をし,ときには「ふふふ」という含み笑いまでした。淳子の態度には,娘が世間を騒がせて申し訳ないという母親の殊勝さは感じられなかった。むしろふてぶてしさのようなものすら感じて,たじろがされる思いだった。そして木嶋佳苗の特異な性格は,この母親から受け継いだものではないかという思いが,ふと胸の内をよぎった。

【第二部 百日裁判  1 初公判】
その女は白黒チェックのインナーの上に色鮮やかな水色のカーディガンを羽織り,下は黒のストッキングに,ベージュのスカートをはいていた。

木嶋は髪をボブヘアに整え,つけまつげをつけアイラインまで引いていた。それなりの容貌ならいま流行りの“美魔女”にも見えるヘアスタイルと化粧だが,木嶋の御面相はどうひいき目に見ても十人並み以下だった。年齢も実際の三十七歳より老けて見える。

どこにでもいそうなおばさんに不釣り合いな化粧をほどこした顔には,昭和の香りが濃厚に漂っていた。

司法担当の新聞記者から漏れ聞こえてくるのは,こんな噂だけだった。「木嶋佳苗は取り調べに一言も応じていない。そのくせ,出された弁当は全部ぺろりと平らげているそうです」

薄化粧をして周囲を時々睨め回す木嶋佳苗の態度には,傍聴席を観客席と見立てて芝居をする演劇女優のように,法廷の空気を楽しんでいる余裕さえ感じられた。

裁判長「名前は」 被告「木嶋佳苗です」 三人の男を殺したとは思えないきれいな声だった。

裁判長「この件についてはどうですか」 「木嶋」私は寺田さんを殺していません」 鈴を転がすような美声でそう言われると,却って不気味な迫力があった。木嶋はその後の答弁でも,「お料理」「お食事」といった丁寧語を使った。通帳を銀行員しか使わない「お通帳」と言ったのには驚いた。それらの言葉遣いが板についているところも意外だった。

木嶋佳苗は生まれついての犯罪者の素質を持った女。(小学校時代に貯金通帳を盗んだという木嶋正英<=佳苗の祖父>の証言による)

木嶋佳苗は生まれついての犯罪者ではないか。

木嶋佳苗が絡んだ事件は起訴されただけでも殺人三件,詐欺その他七件,計十件あり,立証すべき事実も多岐にわたっている。

木嶋は別海高校を卒業後,上京して東洋大学経営学部(二部)に入学したが,一回も授業に出ずに除籍となっている。また,様々な職業に就いたというのは“自己申告”に過ぎず,仕事らしい仕事に就いた経験はない。ケンタッキー・フライド・チキンで働いたことはあるが,これも短期間で辞めている。

木嶋は午前中の水色のカーディガン姿から一変,濃紺のジャケットに純白のインナーという衣装に“お色直し”してきた。インターは午前のチェック柄より,明らかに胸を大きく露出させていた。唇にもリップグロスが塗られている。

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