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『別海から来た女――木嶋佳苗 悪魔祓いの百日裁判』からの引用(抜き書き)読書ノート

引用(抜き書き)別海から来た女――木嶋佳苗 悪魔祓いの百日裁判』の読書ノート作成者:masudakotaro さん

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【2 埼玉・大出嘉之殺害事件】
木嶋の犯罪は明らかに異常である。しかし,異常というなら,捜査の包囲網に囲まれていることを知りながら,多額のカネを提供して木嶋と同居した田中のふるまいも,常識では理解できない。

田中の話で驚いたのは,埼玉県警が最初田中の家宅捜索に入ったとき,押収していったのは,木嶋が持ってきた椅子だけだったという話だった。

「彼女の携帯電話とか,薬の錠剤なんかはまったく持っていかなかった」
――錠剤?睡眠薬だったかもしれないじゃないですか。携帯電話には,殺人の有力な証拠が記録されていたかもしれない。
「ただ,見ただけで,生きている携帯電話も持っていかなかった」
――とんでもないアホですね。なぜ,椅子だけは持っていったんですか?
「大出(嘉之)さんが(木嶋の家で)睡眠薬で倒れたときに失禁したらしいんです」
それにしても,携帯電話を持っていかなかったというのはひどい話である。この事件に関する警察捜査の杜撰さは,言語に絶する。(中略)
――木嶋が川越署に留置されているとき,接見はしましたか?
「いや,しないですよ。接見禁止でしたから」
――手紙は来たことありますか?
「弁護士を通して来たことはあります。うちに戻りたいみたいなことが書いてありました」
――うちというのは?
「ここに」
これにも驚いた。木嶋はこの家に戻って来て,すきを見て田中を殺そうとしたとしか考えられない。(中略)
――やっぱり人格障害じゃないですか,彼女は。
「自分をヒロインにしちゃって。公判で自分の性の自慢話をするなんて,ちょっとふつうじゃ考えられないですよ。自分の自叙伝でも書くつもりなのかって」
――確かに公判での木嶋の話は,自分の自叙伝を語っている感じはしました。ウソ八百のね。
「だからそのウソが,だんだん自分の本当の姿になっていくみたいな。別の世界に行っているような」
短い期間とはいえ,さすがに木嶋と暮らした男だけのことはある。この見方は説得力があった。

木嶋は騙そうとする男の姉や母親などには極力会おうとしていない。男はだませても,女はだませないことを,木嶋はおそらく本能的に知っていた。

【3 東京・寺田隆夫殺害事件】
この裁判が人をぐったりさせるのは,木嶋の背徳性があまりにも常軌を逸しているからである。木嶋は人を冒涜することを何とも思っていない。というより,人を冒涜することが生きがいと感じているふしさえある。

この事件はこれまでのどんな事件とも異質である。そして木嶋はこれまでのどんな犯罪者と比べても異質である。譬えて言うなら犯罪者のレベルが違うのである。

「焼肉でも行っちゃう?」。これが寺田を殺した翌日のメールである。

木嶋は贅沢な生活を維持するために寺田に近づき,結婚話が現実味を帯び始めたとたん,飽きたおもちゃでも放り出すように,睡眠薬と練炭で静かに殺すのである。

メールではひどく饒舌だが,実際に会って会話すると無口になる。これが木嶋に接した人間が木嶋について語る共通の認識である。

この事件の特徴の一つは,相手が罠にかかるまで,木嶋がおそろしく周到な準備をしていることである。だが,カネをだまし取ると,木嶋の犯行は途端に杜撰になる。おそらく木嶋は,粘着質だが飽きっぽい性格の持ち主である。

練炭に関して言えば,木嶋は練炭を大量に買った理由として,豆を煮るためだった,煮豆は練炭を使って調理すると,ガスを使って調理するよりずっとおいしくなると,誰が聞いても「ふざけるな」と言ってぶん殴りたくなる答弁を繰り返している。

【4 千葉・安達健三殺害事件】
木嶋が関わったすべての事件の核心部分は,経済的に困窮していることを装った被告が,カネを得る目的で婚活サイトに登録し,多額のカネをだまし取った上,相手との関係を断つため練炭自殺を装って殺害したことである。
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