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『翻訳がつくる日本語―ヒロインは「女ことば」を話し続…』からの引用(抜き書き)読書ノート

引用(抜き書き)翻訳がつくる日本語―ヒロインは「女ことば」を話し続ける』の読書ノート作成者:masudakotaro さん

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【1】
1957年に邦訳された『風と共に去りぬ』から,1999年の『ハリー・ポッターと賢者の石』,そして2006年に新訳された『カラマーゾフの兄弟』まで,実に長期間,ヒロインのことばは,その人物の年齢や言語,作品の背景に関わりなく,女らしい女ことばに翻訳されてきたのである。

私は彼女の写真を見た瞬間に,「この人の発言は女ことばに訳されるはずだ」と直感した。清楚な白人美人が真っ赤なドレスを着て微笑んでいたからである。

案の定,彼女の発言には,「ジャズ歌手とし呼ばれるのは間違いではないけれど,シンガー・ソングライターの方がより正確かしら」と「かしら」が使われている。ここでは,日本ではほとんど使われない「かしら」を,アメリカの26歳の女性に使わせている。

(アンジェリーナ・ジョリーのインタビュー記事)主演した映画『チェンジリング』について聞かれ,パートナーの俳優ブラッド・ぴっどの感想を述べたことばは,「映画を見たブラッドが『お母さんに似てるね』と言ってくれたのはうれしかったわ」。次の作品が終わったら休暇をとって育児に専念するという発言は,「ママ業に転職よ」と,「わ」「よ」をともなった女ことばに翻訳されている。

この記事の見出しは,「ビーナス?やっつけてあげるわ!」だ。日本で「あげるわ!」と言う14歳の少女などいるだろうか。

日本人女性は,このような女ことばを実際に使っているのだろうか。日本人女性の会話を分析した研究によると,このような女ことばはほとんど使われていないようだ。

2004,2005年に行われた首都圏の20代から40代までの女性の会話を対象にした調査によると,「わ,だわ,わよ,わね,かしら,体言+ね,体言+よ」などの,いわゆる女らしい文末詞は,40代以上には残存しているものの,40代前半から30代末にかけて徐々に死後になりつつあり,20代ではほぼ消滅している。

【2】
日本人の男子高校生で「やあ○○。ぼくは〜さ」などと話している人などいるだろうか。

若い男性同士の親しい会話を「やあ,さ,かい,だい」に翻訳する傾向は,数多くの英会話のテキストにも見られる。

「やあ,ぼく,さ,かい,だい」が,男性の気軽な親しさを演出していることは,使われる人物の職業にも現れている。もっとも頻繁に見られるのは,男性スポーツ選手の発言である。

「やあ,さ,かい,だい」に代表されるような言葉づかいを,「おれ,おまえ,ぜ,ぞ」に代表される従来の「男ことば」と区別して「翻訳版・気さくな男ことば」と呼ぶ。「翻訳版・気さくな男ことば」は,これまで例に挙げたような職業の男性の翻訳を通して,気軽な親しさ,気楽さを持った<男らしさ>と結びついている。

【3】
(『風と共に去りぬ』)白人女性の発言は女ことば,白人男性の発言は標準語に訳され,黒人は男女とも変わった言葉づかいに訳されているのである。

ヒラモトによれば,それ以上に重要なのは,黒人奴隷の話し方がきちんとした東北弁なのではなく,「擬似東北弁」とでも呼べるものに翻訳されているという点である。

ロングと朝日は,東北弁には「無教養の田舎者が話すことば」というイメージが与えられており,これが原作の登場人物のイメージに合致するために,東北弁が用いられると考えた。

しかし,「方言のステレオタイプ」による説明だけでは,翻訳に使われる方言の最も大きな特徴を説明することができない。それは,翻訳に使われる多くの方言は,その方言の話し手が実際に用いている形ではなく,先ほど「擬似東北弁」と名付けたように,中途半端に方言の特徴を取り入れているだけだという事実である。

【4】
アイデンティティを言語行為の原因ではなく結果と捉える考え方である。このように,アイデンティティを,言語行為を通して私たちが作りつづけるものだとみなす考え方を「構築主義」と呼ぶ。私たちは,予め備わっている<日本人・男・中年>という属性に基づいてことばを選択するのではなく,特定の言葉づかいをする行為によって自分のアイデンティティを作り上げていると考える。
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