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『楽園への道 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-2)』からの引用(抜き書き)読書ノートリスト

引用(抜き書き)『楽園への道 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-2)』の読書ノートリスト

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  • おまえがおまえが狂ったオランダ人に感謝しなければならないとしたら、彼が初めて、おまえの関心をポリネシアに向けてくれたことだ。彼が手に入れ、気に入っていた小説、フランス商船の高級船員ピエール・ロティの『ロティの結婚』のおかげだった。その小説はタヒチが舞台で、そこでは美しく肥沃な自然の中、人々は自由で健全で、偏見も悪意もなく、自然のまま本能のまま快楽に身を委ねながら暮らしていて、野性的な情熱と活力に満ちた、削減する前の地上の楽園だった。人生に矛盾なんてよくあることだよ、ちがうかね、コケ。文明が西洋社会から取り除いてしまった根源的、宗教的な力を求めて、金銭が支配する頽廃したヨーロッパから、エキゾティックな世界へ逃れることを夢見ていたのは、フィンセントだった。けれども彼はヨーロッパの監獄から逃げ出すことはできなかった。それに対して、おまえはタヒチに行ったし、今はマルキーズ諸島まで屋ってきて、狂ったオランダ人が夢みたものを現実にしようとしていた。 「喜んでくれよ。おまえの夢を叶えてやったよ、フィンセント」とコケは声を張り上げて叫んだ。「ほら、ここに『愉しみの家』ができたよ。おまえはアルルで俺の人生をひどく狂わせやがったが、憧れのオルガスムスの家だ。俺たちが考えていたようなものにはならなかったけどね。おい、わかったか、フィンセント」 P328(続きを読む
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haruga6さん
haruga6 さん(2012/12/07 作成)
  • それで彼は、最後の自画像を描こうと決心した。それは落ちぶれて無為のまま、堕落し、士気喪失したマルキーズの人々の間で、彼らと同じように忘れられた世界の片隅で零落している自分自身の姿を、身をもって証すことだった。彼はイーゼルの横に鏡を置いて、衰えた瞳がようやく捉えた、今にも消えてしまいそうに霞んだその像をキャンヴァスに描き取ろうとして、二週間以上作業をした。間近に迫る避けようもない自分の最期を、屈辱的な眼鏡の奥で視線にその分別をたたえながら静かに見つめている、ぐったりしているがまだ死んでいない男。その視線の中で、冒険や狂気、探究、敗北、闘争に満ちた激しい人生が語られていた。一つの生命には必ず終わりが来るものだよ、ポール。白い短髪に痩せた体躯、そして平然たる大胆さをもって最後の攻撃を待っている。おまえは確信してはいなかったが、たくさん描いてきた自画像ーーブルターニュの農民の姿で、ツボの曲面に描かれたペルーのインカ人の姿で、ジャン・ヴァルジャンになぞらえて、オリーヴ園のキリスト教のように、ボヘミアンとして、あるいはロマンティックな人物像としてーーの中でこれが、別れの、人生の終局を目前にした芸術家の自画像が、もっとも自分を現していると直観的に感じてきた。 P334(続きを読む
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    haruga6さん
    haruga6 さん(2012/12/07 作成)
  • 今でもそうだろう、コケ。近年おまえが発言したり、文字に表してきた芸術上の問題に関する無数の肯定・否定の背後にある、動かせない核心はいつも同じだった。西洋美術は原始芸術の中にある生活の総合体から分離することによって衰退してしまった。原始芸術では、美術は宗教とは切り離すことはできず、食べることや飾ること、歌うこと、セックスをすることと同様に、日常生活の一部を形成している。おまえは作品にこの伝統を復活させたかった。 P422(続きを読む
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    haruga6さん
    haruga6 さん(2012/12/08 作成)
  • ここのところの性的興奮に彼は苦しんでいた。彼は「姦淫すること」(ルーテル派の元説教師はこの言葉を使っていた)に用いるエネルギーは、芸術家としての仕事に向かうエネルギーを減少させていると思い込んでいた。元牧師の清教徒的偏見をポールはからかった。彼にとっては反対に、ペニスが満足していなければ、絵筆を取る勢いがまったくなかった。 「ちがう、ちがう」激昂しながら、狂ったオランダ人は言った。「俺の傑作はセックスを完全に絶っているとき描いたんだよ。精液で描いた作品だ。そのセックス・エネルギーを、女にじゃなくてキャンヴァスにぶちまけたんだよ」 「バカなこと言うなよ、フィンセント。それなら、俺には余りあるほどのセックス・エネルギーがあるってことじゃないか。絵にも女にも回せるだけのよ」 P326(続きを読む
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    haruga6さん
    haruga6 さん(2012/12/07 作成)
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