『麦ふみクーツェ (新潮文庫)』の読書ノートリスト
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- 先生がおもいだしたかのように、 「へんてこで、よわいやつはさ。けっきょくんとこ、ひとりなんだ」 と口の端からつぶやいた。「ひとりで生きてくためにさ、へんてこは、それぞれじぶんのわざをみがかなきゃなんない」 「技?」 とん、たたん 「わざだよ」 先生はこたえた。「そのわざのせいで、よけいめだっちゃって、いっそうひどいめにあうかもしんないよ。でもさ、それがわかっててもさ、へんてこは、わざをさ、みがかないわけにはいかないんだよ。なあ、なんでだか、ねこ、おまえわかるか」 「それは」 たたん、とん ぼくは足ぶみのようにひとことずつ区切っていった。「それがつまり、へんてこさに誇りをもっていられる、たったひとつの方法だから」 「へえ」 と先生は口をとがらせ、「ねこのくせに、よくわかってやんの」 「ねえ先生」 とぼくは言う。「みどり色は何十万にひとりなんかじゃない。この世でたったひとりなんだ。ねえ、ひとりってつまり、そういうことでしょう?」 先生はなにもいわなかった。こたえをかえすかわり、鏡なし亭につくまでのあいだクッションのきいた座席の上で、ずっとぴょんぴょこ跳びはねていた。(続きを読む)
dotetintin さん(2014/03/11 作成)