【第2章 「推論」と「探索」の時代】
第1次AIブームは推論・探索の時代,第2次AIブームは知識の時代,第3次AIは機械学習と特徴表現学習の時代である。
1960年台に花開いた第1次AIブームでは,一見すると知的に見えるさまざまな課題をコンピュータが次々に解いていった。さぞかしコンピュータは賢いのだろうと思われたが,冷静になって考えてみると,この時代の人工知能は,非常に限定された状況でしか問題が解けなかった。迷路を解くのも,パズルを解くのも,チェスや将棋に挑戦するのも,明確に定義されたルールの中で次の一手を考えればよかったのだが,現実の問題はもっとずっと複雑だった。
【第3章 「知識」を入れると賢くなる】
推論・探索のためのシンプルなルールで人工知能を実現しようとした第1次AIブームとは異なり,第2次AIブームを支えたのは「知識」である。たとえば,お医者さんの代わりをしようと思えば,「病気に関するたくさんの知識」をコンピュータに入れておけばよい。弁護士の代わりをしようと思えば,「法律に関するたくさんの知識」を入れておけばよい。そうすると,迷路を解くというおもちゃの問題ではなく,病気の診断をしたり,判例に従った法律の解釈をしたりという現実の問題を解くことができる。
エキスパートシステムの課題→知識をコンピュータに与えるために,専門家からヒアリングして知識を取り出さないといけないことである。これはコストもかかり,大変な処理であった。また,知識の数が増えて,ルールの数が数千,数万となると,お互いに矛盾していたり,一貫していなかったりするので,知識を適切に維持管理する必要が出てくることもわかった。
知識を記述するのが難しいことがわかってくると,知識を記述すること自体に対する研究が行われるようになってきた。それがオントロジー研究につながった。
「人間がきちんと考えて知識を記述してくためにどうしたらよいか」を考えるのが「ヘビーウェイト・オントロジー」派と呼ばれる立場であり,「コンピュータにデータを読み込ませて自動で概念間の関係性を見つけよう」というのが「ライトウェイト・オントロジー」派である。
ライトウェイト・オントロジーのひとつの究極の形ともいえるのが,IBMが開発した人工知能「ワトソン」である。
ワトソン自体は質問の意味を理解して答えているわけではなく,質問に含まれるキーワードと関連しそうな答えを,高速に引っ張り出しているだけである。
第2次AIブームは,「知識」を入れることで人工知能の能力向上を図ってきた。しかし,ワトソンの性能がどれだけ上がったようにみえたとしても,質問の「意味」を理解しているわけではない。
単純な1つの文を訳すだけでも,一般常識がなければうまく訳せない。ここに機械学習の難しさがある。一般常識をコンピュータが扱うためには,人間が持っている書ききれないくらい膨大な知識を扱う必要があり,極めて困難である。
フレーム問題→ロボット3号には,さらに改良が加えられた。今度は,「目的を遂行する前に,無関係な事項は考慮しないように」改良された。すると,ロボット3号は関係あることとないことを仕分ける作業に没頭して,無限に思考し続け,洞窟に入る前に動作しなくなった。
シンボルグラウンディング問題→意味がわかっている人間にはごくかんたんなことが,意味がわかっていないコンピュータにはできない。シマウマが「シマシマのあるウマ」だということは記述できても,ただの記号の羅列にすぎないので,それが何を指すかわからない。初めてシマウマを見ても,「これがあのシマウマだ」と認識できない。つまり,シマウマというシンボル(記号)と,それを意味するものがグラウンドして(結びついて)いないことが問題なのだ。
第2次AIブームでは知識が主役となって発展したが,同時に,知識を記述することの難しさがわかってきた。(
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