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『社会・政治』関連の引用(抜き書き)読書ノートリスト

引用(抜き書き)『社会・政治』関連の読書ノートリスト

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  • 私は負けない 「郵便不正事件」はこうして起きた
    逮捕されたからといって,私がそれほど激しく落ち込まずに済んだのは,生来ののんきな性格に加え,多くの人に応援していただいたこと,そして,夫と娘たちの存在が大きかったと思います。 もともと楽観的な方ですし,(中略)今できないことは悩んでいても仕方がない,とりあえず横に置いておこう,というのがほとんど習慣のようになっていました。逮捕されて拘置所にいるときも,「なんで逮捕されちゃったんだろう」と今更考えてみても,逮捕されたこと自体はいくら私が努力したところで変えられない。それだったら今何ができるか考えようとおもいました。 「あなたが何をしてたって,あるいはあなたに何の罪もなくたって,生きていれば多くのことが降りかかってくるわ(中略)だけど,それらの出来事をどういう形で人生の一部に加えるかは,あなたが自分で決めること」(『サマータイム・ブルース』サラ・パレツキー,山本やよい訳,ハヤカワ・ミステリ文庫) 「無実」だからといって無罪になるとは限らない。 「無実」だから必ず無罪が勝ち取れると思うと,最後にそうならなかった時に辛い。 裁判結果がどうであろうと,私が「無実」であることは変わらない。裁判所で闘う以上は,「無実」を社会に証明する方法として,「無罪」を目指す。でも,たとえ悪い結果が出たとしても,がっかりすることなく,最後まで闘う。 検察というのは,「本当はどうだったのか」ということには何の関心もないのだな,と感じました。それよりも,自分たちの冒頭陳述を守ることに全力を傾ける。途中で新しいことが分かっても,自分たちのストーリーと違えば,一切無視して,自分たちの物語だけを守っていく。つまり,真実はどうであれ,裁判で勝つことだけが大事というのが彼らの行動原理だと,よく分かりました。 「勝ち」にこだわりすぎて,何度も引き返すチャンスがあったのに,それをすべて活かせませんでした。なぜ,この組織はこんなにも,引き返せないのでしょうか。 検事たちは,使命を与えられ,走り始めると,とにかくそれに向かってまじめに突き進んでしまう。それは,ある種の本能なのでしょう。それが困難な事件を解決するために活かされることもあるのでしょう。でも,今回のように,一丸となってストーリーどおりの調書作りに励んでしまったり,問題が発覚しても途中で止められず,最後まで走り続けてしまうことにもなります。 やってもいない罪に問われた時,運を頼みにしなければならないのでは,法治国家としてあまりに残念です。普通に適正な手続を行えば,無実の者の嫌疑が速やかに晴れるような,冤罪ができる限り防げるような,そんな仕組みが必要ではないでしょうか。 罪を認めない人が,それゆえにいつまでも身柄拘束されるのは,問題です。身柄を拘束されることが,本人と家族の生活をどれだけ破壊することなのか,検察と裁判所は本当に理解しているのでしょうか。 身柄拘束が,そういう様々な問題をもたらすという想像力に欠けたまま,前例主義と事なかれ主義に陥っているのではないかと,特に勾留や保釈の判断をする裁判官には申し上げたい。 裁判官は全能の神ではないのに,過剰な期待をかけすぎている。 裁判は,真相究明の場ではなく,被告人が本当にその罪を犯したと,合理的な疑いを差し挟む余地がないほどの立証を検察官ができたのか,もし犯人だとすればその責任はどれくらいかを見極める場所です。なのにマスメディアも,「真相解明」を言い過ぎです。(続きを読む
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    masudakotaroさん
    masudakotaro さん(2013/11/20 作成)
  • 検証 日朝交渉 (平凡社新書)
    p177「拉致被害者のうち生存者は五人で、八人が死亡しているという北朝鮮からの通知は、被害者の家族に大きな衝撃を与えた」「しかし、ここで苦痛に耐え、怒りを抑えながら理性的な外交を進めることが必要であったと思われる。日朝国交樹立を求めていく道は、拉致問題を解決するためにも唯一の現実的な道であった」(続きを読む
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    midnightwakeuperさん
    midnightwakeuper さん(2013/11/15 作成)
  • 検証 日朝交渉 (平凡社新書)
    p212「日本にとっての日朝交渉正常化とは、かつて植民地支配をした朝鮮半島の人びとに対して、歴史の清算を行う『最後のチャンス』でもある」「いかに経済協力に歴史の清算への誠意を込めるかを考えるべきであろう」(続きを読む
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    midnightwakeuperさん
    midnightwakeuper さん(2013/11/15 作成)
  • 反米の系譜学―近代思想の中のアメリカ (MINERVA人文・社会科学叢書)
    「人類学は最初の近代的な、あるいは実証主義的な社会科学であり、アメリカ退化論(<-原著では、 American degeneracy theory みたい、引用者注)はその基礎となった。人類学の祖はジョルジュ・ルイ・ルクレール、つまりビュフォン伯であり、アメリカ退化論をはじめて提起したのも、彼であった。(第1章、p.20)」 「アメリカ退化論の支持者の中には、著名な百科全書派であり、『両インドにおけるヨーロッパ人の植民および商業の哲学的・政治的歴史』(一七七○年)の著者であるレナール師、『アメリカの歴史』(一七七七年)の著者であるスコットランド人歴史家のウィリアム・ロバートソン、そして今となっては忘れられてしまったコルネリウス・ド・ポー師などがいた。とりわけここでの議論で一番重要なのは、『アメリカ人に関する哲学的考察』という三巻にわたる長大なアメリカ論を著したド・ポーである。(第1章、p.21)」 「管見によれば、ド・ポーに関する唯一の英語論文は、Henry Ward Church,\"Corneile de Pauw and the Controversy over the his Recherches ohilosophiques les Americains,\" Publications of the Modern Languages Asssociation of America 51 (March 1936):178-206である。(注(11)p.272)」(続きを読む
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    kohaku_nanamoriさん
    kohaku_nanamori さん(2013/09/15 作成)
  • 反米の系譜学―近代思想の中のアメリカ (MINERVA人文・社会科学叢書)
    「過去二○○年間以上にも遡れる潮流の中で、ヨーロッパの最も傑出した思想家のうちには、『アメリカ』という言葉をとらえて、単なる場所や国以上のものに仕立て上げた者もいた。彼らはこの言葉を、哲学上の概念や文学上の修辞以上に転化してきたのである。ドイツではヘーゲルから(シュペングラーとユンガーを経て)ハイデガーに至る人々が、フランスではビュフォンから(ド・メーストルとコジェーブを経て)ボードリヤールに至る人々が、新たなアメリカを創出してきた。」(p.I) (続きを読む
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    kohaku_nanamoriさん
    kohaku_nanamori さん(2013/09/15 作成)
  • 反米の系譜学―近代思想の中のアメリカ (MINERVA人文・社会科学叢書)
    「義憤に駆られて自国の擁護に立ち上がることが、現代の学術研究において許されるなら、私は素朴な闘争の呼びかけから本書を始めたいと思う。今やアメリカを奪還すべき時である。文芸批評家や哲学者、そしてポストモダン思想家を自称する連中から、今やアメリカを奪還すべき時である。彼らこそ、まさに『アメリカ』という言葉を、グロテスクで、淫猥で、怪物的で、無能で、矮小で、平板で、精彩を欠き、破壊的で、奇形で、無教養で、そして(つねに括弧つきの)『自由』ものを示す、一つのシンボルに転化して来たのである。私はわが同胞に向けられた攻撃について警鐘を鳴らし、『現代哲学による批判にはこう反論せよ、文芸批評による批判にはこう反論せよ』と警告を発しながら、講演会場を渡り歩くことだろう。」(1997刊、「序論 アメリカを奪還せよ」p.I) (続きを読む
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    kohaku_nanamoriさん
    kohaku_nanamori さん(2013/09/15 作成)
  • 毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記
    もしかしたら,佳苗は「惚れなかった」から,常に男たちの冷静な観察者だったから,そして決して自分の容姿を卑下することがなかったから,男たちに魔法をかけられたのかもしれない。男たちは,ただ彼女に受け入れられている,愛されている,という安心感のなか,彼女がみせる虚構の世界にゆったりと浸っていればよかったのだろう。生々しく悔しがり,嫉妬し,怒る,感情的で面倒くさい美人より,自分をすべて受容する料理上手で感情をみせない不美人のほうが,男たちは夢を見やすい。 (中略)冷静な佳苗が上手に見えるのだ。裁判員の心証を悪くするための検事の質問のはずが,逆に検事の純情を佳苗がもてあそんでいるように聞こえてしまうのだ。 それにしても,検察側の被告人質問になってからの佳苗の服装は,これまでになく地味である。地味というよりは,気を抜きすぎ,という感じだ。弁護側の被告人質問の時は,スカートを重ねばきしたり,黒いワンピースや旨が大きくあいたカットソーなどを着ていたのが,検察側の尋問になってからは茶色のシャツに紺のジャケットにグレーのパンツにスリッパといった,まるでやる気のない装いだ。もしかしたら今までは礼服感覚だったのだろうか。検事には礼服で対応したくはない? 声を荒げる検事に,一度,佳苗が笑ったことがあった。傍聴席からは見えないが,きっとバカにしたように口元を歪めたのだろう。詰め寄るように「なぜ笑ったんですか?」と検事が聞くと,「佳苗は彼を見ようともせずに,マイクに向かって,はっきりとこう言った。「あなたが,常に,恫喝的だからです。」 (佳苗の最終意見陳述)佳苗は,時折,小さく「あんっ」と喘ぐような感じで声を引きつらせつつ,話した。改めて,美声だと思った。女の泣き声を,私は初めてセクシーだと思った。しかし,振り返った佳苗の顔に,涙の跡はみえなかった。席に座った佳苗はいつものように無表情のまま,綺麗な水色のハンカチで目と鼻をおさえていた。あれ!?一瞬目を疑った。ハンカチを,替えている?午前中はピンクのタオルハンカチだったよね?あはは。なんだか力が抜け,声を出して笑いそうになる。黒いワンピースに水色の面のハンカチは,綺麗に映えている。そして,とても佳苗らしい,と思った。 佳苗は,最後まで,佳苗だった。どんなにたくさん嘘をついてきても,自分を裏切ることはできないのが,佳苗だ。「男性が喜びそうな女像」と徹底して演じながらも,「他人にどう思われるか」に,驚くほど無頓着で恐れを持たず,それより「どう見せたいか」にこだわり,相手に畏怖と敬意を求める。それが佳苗だ。 佳苗がセックスのことを語っても,何ら有利に働くことはない。傍聴席からの失笑は佳苗の耳にも届いているだろう。裁判長の苛立ちや,検事の侮蔑を痛いほど感じているはずだ。それでも佳苗は,セックスのことを語り続けた。 検察は,二つあるはずの鍵が寺田さんの部屋に一つしか残っていなかったのは,佳苗が持っていたからだと主張していた。が,寺田さんがカギを二つ持っていた証拠はない。そもそも鍵が部屋に二つあった証拠だって,鍵が一つなくなっている証拠だってないのだ。しかし裁判長は口早に,しかしハッキリとこう言った。「寺田さんはレシートをきちんと残しておく几帳面な人だった。鍵をなくすことは,考えられない」」。え?そんな理由でいいの?思わず耳を疑い,身を乗り出してしまう。また,検察側の証人について「抑制的で冷静な話し方をする人だから,信用できる」と裁判長が言った時には,思わず「そんな!」と声をあげたくなった。それを言うなら,佳苗は終始,抑制的で冷静だった。 今回,裁判員はほとんど質問をしなかった。一度も声を出さなかった人もいた。せっかく「質問できる立場」にあるのに,さらにいくらでも疑問が出てくる裁判なのに,質問が出ないなんて信じられなかった。 佳苗は「平成の毒婦」と名付けられた。それでも,佳苗の「毒婦」は,どこか座りの悪い妙な感じを与えた。衝撃的に出回った写真が与えた影響は大きい。男たちを魅了し,多額のお金を引き出した佳苗が「毒婦」であることは間違いない。が,「なぜ男たちはこんな女に騙されたのか?」という疑問が,佳苗には常につきまとったのだ。いったい,なぜ,こんな女が「毒婦になれた」のだろう?と。そんなことを考えさせる「毒婦」など,かつていただろうか。 女の犯罪者の場合,その美醜も事件の要素の一つである。もし佳苗が美しい女だったら,被害者男性たちは,羨望や同情を集めただろう。それなのに美しくない女の被害者になった男性たちは,容赦なく好奇の目にさらされた。被害者すら“ブス色”に染められる。女の容姿そのものが事件であることに,言葉を失う。(続きを読む
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    masudakotaroさん
    masudakotaro さん(2013/09/08 作成)
  • 毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記
    頭がフラフラになりながら,田舎に帰ろうと首都高を歩いてしまったM氏や,1泊10万円のリッツ・カールトンをプレゼントするK氏ら,騙された男性たちをピュアだ,純粋だ,気の毒だという声もある。確かに気の毒だと思った。(中略)でも,私には公判が始まって以来,頭の隅のどこかで考えてしまうことがある。もし,これが男女逆だったら?考えても仕方ない前提が,何度も頭に浮かぶ。初対面の男とホテルに行く女性や,男の家にすぐあがる女性や,婚活サイトで男を探す女に,世間は“ピュア”と言うだろうか。ラブホテルで睡眠薬を飲まされた女を“純情”と言うだろうか。「被害者にも落ち度があった」という聞きなれた声がもっと飛び交うんじゃないか。 安藤さんの事件に切り替わった次の日,佳苗は靴を新調した。通常,被告人は走って逃げられないよう,スリッパを履く。佳苗もこれまでは,黒のスリッパを履いていた。ところがこの日,佳苗の足元はスリッパではなく,5センチヒールのサンダルだったのだ。黒いメッシュの先から,つま先がのぞいている。「あんなの初めて観た」。隣に座ったベテラン記者が驚いていた。午前と午後で服を変えたり,前髪を切ってきたり,唇をつやつやさせたり,旨が大きく開く華やかな服を着てきたり・・・・と,この手の“伝説”を次々つくる佳苗を,「ふてぶてしい」と言う人は多い。確かに,被告人席に座っているのにおどおどした様子はなく,感情的にはしごく安定していて,表情を一切変えない佳苗は“ふてぶてしい”のかもしれない。それでも私には,ふてぶてしいというより,佳苗が他人からの同情を拒否しているように見える。 新しいサンダルを履いた日,佳苗の足下が見える席で傍聴した。佳苗は机の下でつま先を立て,足を床から数センチ浮かし,足首をひねったりしていた。え?まさか美脚づくり?佳苗の足首は締まっているなぁ,と思っていたけれど・・・。試しに佳苗と同じ動作を私もしてみた。数秒で疲れて諦めた。もしかしてこの人は,“つまらない”審理の時,ずっとこうやって足を浮かせ続けてきたのではないないだろうか。キュッとしまった足首に釘付けになった。 男は佳苗が不美人故にこの事件に関心を持たないが,女は佳苗が不美人だからこそ,関心を持つのかもしれない。 この社会に生きていれば,不美人であることの不遇を,女は痛いほど感じている。女は,男のようにブスを笑えない。自分がブスだ,と自虐はしても,他人のブスは笑わない。それは天につばするようなものだから。そんな社会で,佳苗は軽々と“ブス”を超えたように見えるのかもしれない。容姿を自虐することもなく,卑屈になることもなく,常に堂々と振る舞う佳苗。不美人を笑う男たちを嘲笑うように利用したのは,不美人の佳苗だ。そこに女は,佳苗の新しさを見る。 2月17日,第23回公判。木嶋佳苗本人が証言台に立った。この日に着ようと取っておいたのだろう。初めて見る黒のシックなワンピースに,白いカーディガン。胸元の開きは,いつもより狭めだ。(中略)冒頭で「殺していません」と否認した佳苗の声は,美声,であった。“鈴を転がすような声”とは,こういう声を言うのかもしれない。あいうえお,と佳苗が言うとそれは,ああん,いひん,うふんと聞こえるはずだ。そのセクシーな声で手際よく語る調子は耳に優しく,自然に引き込まれてしまう。 「男性たちには褒められました。具体的には,テクニックというよりは,本来持っている機能が,普通の女性より高いということで,褒めて下さる男性は多かったです」 「(彼がいるのに)他の男性とセックスすることを,裏切りとは思わなかったのか?」という問いには,ああそれね?って感じでこう答えていた。「そういう価値観は,持っていませんでした」 佳苗はデパート内のスーパーでバターや蜂蜜など,道警7万円もの買い物をしていた。検事は「値札を見ないのか!?」と声を荒げたが,「ふだんからお買い物をする時,値段を気にしたことはありませんでした」と佳苗は言い放った。 冷静に男性たちのルックスを評価し,結婚する気はなかった,と淡々と話す佳苗。後の検察側の被告人質問の時,ある男性と泊まったホテルに別の男性とも泊まったことについて,若い男性検事が呆れたように聞いたことが忘れられない。「抵抗はないんですか?」。その時,佳苗はサラリとこう答えたのだった。「何に抵抗を感じるのか分かりません」。男は純情の名の下にお金を出し,愛を求め,手料理を求め,セックスを求めてくる。佳苗のドライさと合理性に,純情が敵うわけがない。 (続きを読む
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    masudakotaroさん
    masudakotaro さん(2013/09/08 作成)
  • 毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記
    決して美しいとはいえない佳苗の容姿はセンセーショナルに報道されてきた。腫れぼったい目,肉付きの良すぎる体,全体的に不潔そう・・・そんなイメージを持った人は多かったはずだ。が,実際に数メートルの距離で見るナマ佳苗から,だらしなさや不潔さや醜さは,全く感じなかった。拘置所では化粧水が使えないのか,額のニキビと顔の赤らみが目立ったが,それよりも,大きく胸の開いた薄いピンクのツインニットからのぞく肌の白さにハッとした。シミ一つない完璧な白,絹のような美肌だ。 そして,なんといっても,声だ。この日,佳苗が話す機会はなかったが,休廷中に弁護士や拘置所職員に話しかけるのが聞こえてきた。それはあまりに優しくて上品だった。内容は聞き取れなかったが,耳に優しいウィスパーボイスだ。ソプラノと言い切れるほど高くはないが,アルトでもない。耳にちょうどよい感じのいい声というような。 佳苗は3件の殺人,3件の詐欺,3件の詐欺未遂,1件の窃盗で起訴された。3件の殺人については無罪を主張し,詐欺については一部認め,窃盗は否認している。 検察側の尋問に対し弁護側が「異議あり」などと声をあげたときなどは,悠然と目の前のファイルを開き,時折ボールペンで何かを書き込むこともあった。その姿が,また印象的だった。ボールペンは100円のノック式のものだが,ノックの仕方が,なんていうか,優雅なのだ。ペンを少し傾けゆっくりと親指で押す。書き終わったら丁寧に芯を戻し,ファイルの背に挟む。一つ一つの所作がきれいだ。 驚いたのは休憩時間に,縄を持つ若い女性拘置所職員に一言二言話しかけ,「よろしく」っていう感じで両手を差し出していたことだった。手を軽くひねるように差し出す姿は,どこか色っぽさが漂う。縄につながれる動作が優雅な被告人なんていただろうか!? お昼の休廷後,肩で切りそろえられた佳苗の髪の位置が,午前中と比べ明らかに上がり,きれいにカールされていた。「あれ,絶対巻いてますよ」。隣に座った女性記者が言っていた。 フツーの被告人はマジメな印象を与えるため,色のある服を避けると,裁判に詳しい友人が話していたが,佳苗は公判が始まってからずっと,きれいな色の,旨の大きく開いた服を着てきている。まじめさよりも,デコルテを強調だ。そしてこの日,顔のニキビが薄くなっていた。ファンデーションを塗っているようにも見えた。きれいだった。観られるほどきれいになっていくタイプなのかもしれない。 この日の佳苗は,ドレープが豊かなグレーのニットに,胸元にレースのある白のカットソーだった。胸元協調は変わらないが,これまでで一番シックで,おしゃれに見えた。 休廷中,被告人席に座った佳苗は弁護士と談笑することがある。弁護士と佳苗の関係は良好のようで,佳苗は深い信頼をみせているようだ。裁判の間の無表情とは違い,華やかな笑顔がのぞく。 寺田さんはシステムエンジニアだった。女性との縁は薄く,人付き合いも得意なほうではなかった。寺田さんの携帯電話に登録されていたのはたった3人だ。お母さんとお姉さんと佳苗。証言台に立った上司は寺田さん像を尋ねられ,こう言った。「無口で寡黙で黙々と働いていました」。無口で寡黙で黙々って,どれだけ無口なのか。 公判が始まってから2週間あまり。被告人席に座る佳苗は,今のところ一度も同じ服の組み合わせをしていない。顎をひいた美しい姿勢のまま,優雅な手つきでメモを取り,時に弁護士に質問する姿は,熱心な受験生のようにも見える。「毒婦」というには,不思議な清潔感がある。 ふざけているわけではないが,被告席に座る佳苗を観ていると,三つの殺人事件の公判をそれぞれシーズン1,2,3とか名付けたくなってくる。たとえば“シーズン1”の大出さん事件が終わり,寺田さん事件に移ったころを境に,佳苗は前髪を切り,服装をパンツからスカートにしている。「これからはシーズン2!」とでもいうような主人公の突然のイメチェンだ。スカート丈はたいてい膝上5センチ。節電のせいか足下が冷える法廷で,佳苗はベージュの網タイツで登場することもある。裁判員を含め紺や黒の服を着た人が多い法廷で,佳苗の薄着と網タイツは,ヒロインそのものだ。あまりに堂々とした姿に,縄を持つ女性拘置所職員がおつきの人に見えてくるほど。 (続きを読む
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    masudakotaroさん
    masudakotaro さん(2013/09/08 作成)
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