「一番強調したいのは『集中』だ。もっと大きくなったとき,どういうグーグルであってほしいのかをはっきりさせなきゃいけない。いまはなんでもありの状態だ。5つの製品に集中するとしたらどれを選ぶ?ほかは全部やめてしまえ。足を引っ張られるだけだ。あれもこれもではマイクロソフトになってしまう。そんなものにかかわっていたら,リーズナブルだけどすごくはない製品しか出せなくなってしまう。」
ジョブズの個性と製品をひとつにまとめる“統一場理論”は,もっとも目立つ彼の特質,すなわち激しさが起点となる。ジョブズの場合,沈黙は怒鳴り声と同じように熱くなりうる。
この激しさがもたらす結果のひとつが,白黒二分の世界観だ。同僚は皆,ヒーローかまぬけに二分してしまう。1日のうちにヒーローからまぬけへ,あるいはその逆に変化することもある。同じことが製品やアイデア,はては食品についても言える。「史上最高」でなければ「くだらない」か「無能」か「食えたものじゃない」のだ。だから,ほんの少しでも欠陥があると感じれば,がんがんに怒りちらすことになる。金属部分の仕上がりしかり,ネジの頭のカーブしかり,入れ物の青みしかり,ナビゲーションの直感的な分かりやすさりかしで,ある瞬間に「完璧だ!」と宣言する直前までは「徹底的にお粗末」なのだ。自分をアーティストだと考えているし,実際そのとおりでもあり,アーティストらしい激しい気性に身を任せるわけだ。
ジョブズの激しさは,その集中力にも表れている。いったん優先順位を決めるとレーザーのように注意を集中し,気をそらすものはすべてフィルターで取り除いてしまう。(中略)なにかを熱心に進めるときの彼はねばり強い。しかし,法的な障害や事業上の問題,がんの診断,家庭責任など,向き合いたくないことがあると断固として無視してしまう。この集中力があるからジョブズは「ノー」と言える。コアとなるごくわずかな製品以外,すべてを切り捨ててアップルを復活させた。ジョブズはボタンをなくして機器をシンプルにする,機能を減らしてソフトウェアをシンプルにする,オプションを切り捨ててインターフェースをシンプルにするのだ。
他人を傷つけるフィルターがジョブズにはないのか,それとも,フィルターをわざと外しているのか,どちらなのか家族さえもはかりかねている。本人にぶつけてみたところ,前者だとの回答が返ってきた。「僕はそういう人間なんだ。違う人間になれと言われても無理だよ。」でも,その気になりさえずれば自分をコントロールできるのではないかと私には思える。ジョブズは,相手の気持ちがわからないからきずつけているわけではない。その逆で,相手を値踏みし,なにを考えているのか理解した上で,そこに寄りそう,おだてる,傷つけるなどを意のままにする力を持っている。
意地悪でなければならなかったとは思わない。メリットよりデメリットのほうが多かったはずだ。ただ,そんな彼だからできたこともある。他人を傷つけないように気を遣う優しくて礼儀正しいリーダーは,無理やり変化させる力が弱い。ジョブズがさんざんひどい目に遭わせた何十人もの同僚に話を聞いたが,彼のおかげで,それまでできると考えもしなかったことができたと,皆,判で押したように悲惨な体験談を締めくくるのだ。
ジョブズは頭がいいのだろうか。いや,それほどいいわけではない。むしろ天才,ジーニアスなのだ。彼の想像力は,予想もできない形で直感的にジャンプする。ときとして魔法のように感じるほどだ。数学者,まーく・カッツが言う「魔法使いのような天才」とは彼のような人間を指すのだろう。どこからともなく着想が湧いてくる人物,知的な処理能力よりも直感で正解を出してしまうタイプの人間だ。丸で探検家のように,ジョブズは周囲の状況を把握し,風のにおいをかぎながら,先になにがあるのかを感じ取る。
「僕は,いつまでも続く会社を作ることに情熱を燃やしてきた。すごい製品を作りたいと社員が猛烈にがんばる会社を。それ以外はすべて副次的だ。もちろん,利益を上げるのもすごいことだよ。利益があればこそ,すごい製品を作っていられるのだから。でも,原動力は製品であって利益じゃない。スカリーはこれをひっくり返して,金儲けを目的にしてしまった。ほとんど違わないというくらいの小さな違いだけど,これがすべてを変えてしまうんだ――誰を雇うのか,誰を昇進させるのか,会議でなにを話し合うのか,などをね。」
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