燭を背けては 共に憐れむ深夜の月
花を踏んでは 同じく惜しむ少年の春
白 (巻上 春の部 春夜の歌)
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めどもかくれぬものは夏虫の身よりあまれるおもひなりけり
(巻上 夏の部 螢の歌)
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秋きぬと目にはさやかにみえねども風のおとにぞおどろかれぬる
敏行 (巻上 秋の部 立秋の歌)
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林間に酒を煖(あたた)めて紅葉を焼く
石上に詩を題して緑苔(りょくたい)を掃ふ
白 (巻上 秋の部 秋興の歌)
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秋風の吹くにつけてもとはぬかな荻の葉ならば音はしてまし
中務 (巻下 風の歌)
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泰山は土壌を譲らず かるがゆゑによくその高きことを成す
河海は細流を厭はず かるがゆゑによくその深きことを成す
李斯(巻下 山水の歌)
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泉飛んでは雨声門(しやうもん)の夢を洗ふ
葉落ちては風色相(しきさう)の秋を吹く
相如 (巻下 山寺の歌)
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いのちだに心にかなふものならばなにか別れのかなしからまし
(巻下 餞別の歌)
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和風(くわふう)先づ導いて薫煙出づ
珍重たり紅房(こうはう)の翠簾(すいれん)に透けることを
(巻下 妓女の歌)
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世の中はとてもかくてもおなじこと宮も藁屋もはてしなければ
(巻下 述懐の歌)
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世の中をなにゝたとへむ朝ぼらけこぎゆく舟のあとの白浪
沙弥満誓 (巻下 無常の歌)
(
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